LOHASブログ
再魔術化のポリティクス
「エイジェンシー」としてのロハス(LOHAS)層の考察

 終章 結論

 再魔術化は、身体知を批判的準拠点によって創発し、再魔術化の技法(消費手段の再魔術化)によって拡大・発展する、というのが本稿の結論である。再魔術化のポリティクスとは、再魔術化させるポリティクスであり、再魔術化によるポリティクスでもあるのだ。

(1)環境問題における認識と実践の距離を埋めるためには、再魔術化が有効である。これによって、環境意識の高さのみから消費を行う「グリーンコンシューマー」という概念では捉えられなかった新たな合理的人間像を捉えることができる。再魔術化によって、「環境」を「自我」に内部化することによって「参加する意識」を得ることができる。そして、認知情報としては自己の利益のためにしていることが、状態としては社会的ジレンマを克服し、環境配慮行動になるのである。

(2)再魔術化が身体知によって創発される。第五章で見てきたように、インフォーマントは「健康に問題を抱える」「異文化と接触する」といった身体知によって、「参加する意識」に目覚め、「健康と持続可能性を志向するライフスタイル」を始めていた。

(3)そして、ライフスタイルを拡大するために、手段の再魔術化によってライフスタイルをそれ自体が幸福であるような魅力的なものにする試み(美としての情報の付与)が有効的な手段となる。

(4)「記号」の氾濫による流行によって廃れないために、ライフスタイル自体に新たな合理性がそこに付与する必要がある。それは、「自然」と「自我」を統合的に捉える再魔術化によって得られる合理性としての環境リスクの認識情報(我々は如何に危険な社会で生きているのか)の伝達によってなされる。

 最後に、なぜ本稿が生産の問題ではなく、消費の問題に注目しているのかを述べたい。人は生活において、労働者としての側面と、消費者としての側面を持っている。例えば、企業が社会的に害毒になることをやっていても、労働者がそれを制止することはできない。なぜなら、生産過程においては、労働者は資本に従属的であるほかはないからだ
95。一方、消費者としての側面であるライフスタイルにおいては、資本は消費者に従属的でなければならない。市場の需要に応えることによって、資本はその拡大的再生産の使命を遂げることができるからだ。したがって、消費によってこそ人は自由に政治を行なうことができ、社会を変革することができるのである。

 再魔術化した消費者は、社会的ジレンマを克服することによって環境問題を一歩解決に近づけることができるだろう。これを本稿は新たな進歩として捉えている。環境社会学では、近年「エコロジー的近代化」の議論が旺盛である。エコロジー的近代化とは「経済発展がある段階を超えると、一人あたりの収入がかなりの高水準に達し、企業や市民の環境が高まり、それにつれて、技術革新や環境意識の向上による省エネ・省資源化が進み、環境コストや環境リスクを下げようとする生産と消費のあり方が模索されるようになる」
96近代化の在り方である。こうした新たな進歩のあり方を日常的に実践できるライフスタイルというかたちで模索する、それこそが本稿の目的であったといえよう。

「われわれは右でも左でもない。前にいるのだ。」(ドイツ緑の党)

95:柄谷行人(2006)『世界共和国へ』岩波新書、155頁。
96:満田久義(2005)『環境社会学への招待』朝日新聞社、181頁。


 最後に

 ロハスはこれから如何なる展開を辿っていくのだろうか。米国に比べ、日本のロハスはスピリチュアリティの要素が少なく、エコロジー的言説への反発の中で、健康的合理性と結びついて発展してきた。現在、医療政策として、メタボリックシンドロームなどに見られるように、健康の自己管理化と予防医療化が進んでいる。この中で、健康という言説を強調することによって、ロハスは一定の影響力を保ち続ける可能性はあるだろう。また、マーケティング用語としての普及から、NPOや地域コミュニティなどへ転回しているという側面も日本では見られる。しかし、もしロハスという用語自体がこれからまったく消滅したとしても、環境リスクの増大、リスクの自己管理化が進む中で、「ロハス的な」ライフスタイルの重要性は変わらないのではないだろうか。




 謝辞

 本稿の執筆にあたって、多くの方からご指導・ご助力を頂いたことを真に感謝している。卒論に丁寧かつ熱心に指導していただいた、梅垣理郎先生、小熊英二先生、土屋大洋先生、渡辺靖先生にはこの場で深い感謝の思いを示したい。また、調査にあたっては、多くのイフォーマントを紹介して頂いた山口弘一さん、快くインタビューを受けてくださったインフォーマントの方々の暖かい態度は、研究を進めるうえで大きな励みとなった。研究に関して、鋭くも暖かいコメントをくれた研究会の先輩・同輩・後輩の方々にも深く感謝している。最後に、ロハスの研究を始めるきっかけとなったロハスな両親の様々な援助に感謝の意を表したい。

2007年6月9日 内坂 翼 
 








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