LOHASブログ
再魔術化のポリティクス
「エイジェンシー」としてのロハス(LOHAS)層の考察
 第五章 ロハス層に関する考察?消費者調査とインタビューを通して

 本章では、まずロハスに関する消費者調査を考察することによって、日本におけるロハス層が如何に定義されているかを概観する。次に、インタビューを通して、ロハス層と呼ばれる人々がどのようなライフストーリーを歩んできており、何を<転機>として現在のライフスタイルを実践するようになったのかに関する考察をする。

5‐1.ロハス層に関する消費者調査 

 米国では2002年からNMI(Natural Marketing Institute)によって、2000人以上の成人を対象にロハス消費者調査が開始されていた。日本でも2005年2月に株式会社イースイクエアによるロハス消費者に関するインターネット調査が行われた
58。調査対象は20歳から69歳の男女であり、サンプル数は2,115人であった。

 同調査は、以下の四つの消費者層を指摘している。(1)環境・健康に対する関心が高く実際に行動に移し、社会的課題・自己啓発、精神性の向上に関心が高いロハス層が29%を占める。ロハス層は、上昇志向、購買欲も強く、気に入った商品を家族や友人などに薦めるなど情報発信力が高い。(2)環境・健康に関心は高いもののコストパフォーマンスを重視し、実際の行動にまではいたらない生活堅実層が27%を占める。生活堅実層の内、女性が58.4%を占め、専業主婦が多い。(3)特に突出した意見を持たず、環境・健康への関心の低い中庸無難層が28%を占める。中庸無難層は、商品の選択基準は有名メーカーであるかどうかやCMで知っているかなど無難な理由となる傾向が多い。(4)利便性の高いものを好み、環境・健康に対してほとんど興味を示さない個人便利層が16%を占める。個人利便層の内、男性が57.4%と多く、年代は30代以下が半数以上を占めている。この調査では、環境意識や健康意識が高い集団の中で、実際に消費をするかどうかでロハス層と生活堅実層を区別している。

 ロハス層の意識を健康意識・環境意識・社会的課題への関心に関して調査した結果、ロハス層と全体では以下のような項目で開きがあった。健康意識では、「自分や家族の健康にはいつも注意している」、「自分や家族の健康のため、環境への配慮をする必要がある」、[健康によりと言われると何でも試してたくなる]、「健康により生活をしたいが、商品が少なすぎる」などである。環境意識に関しては、「環境問題に関心がある」、「環境によいことやモノを試したい」、「環境によいことをした後は、自分としても気持ちがよい」などで、社会的課題への関心としては「再生エネルギー」、「持続可能な農業」、「社会正義、社会的課題」、「生物多様性」などである。

 ロハス層は、性別に偏りがなく、年配層が多く、学歴・年収が高い。総合すると、LOHAS層の特徴として述べられていたことは、主に以下の四つである。第一に、ロハス層は自分の健康のために環境へ配慮するという特徴が強調される。第二に、彼らは「環境に良いことを行うこと=自分にとっても気持ちのいいこと」と捉え、実際に行動をとっている。第三に、情報の収集は、新聞、専門家の話、そして非営利団体からの情報を重視してなされており、第四に社会的課題に対する問題意識が高いということが挙げられる。また、ロハス層は性別には偏りがなく、年配層が多くて、学歴・年収が高いという属性を持つとされている。

 また「生活実態に関するアンケート」
59における調査によると、「ロハス(LOHAS)と聞いて、あなたがイメージしたり、感じたりすることは、どんなことですか」という質問に対する答えは、「地球環境に配慮する(27.8%)」、「健康に配慮する(14.6%)」、「『ロハス』という言葉だけ先行してしまっている(11.5%)」、「エコロジー(11.3%)」であった。また、「LOHASな生活スタイルをしている」と答えた17.4%の人々は実際の生活の中で、「リサイクルを心がけている」(25.5%)、「環境には配慮した商品を購入するよう心がけている」(19.6%)、「生産者が表示されている商品を購入するよう心がけている」(11.5%)、「アロマや漢方を取り入れている」(8.0%)、「ヨガなどを取り入れて健康作りに励んでいる」(7.2%)などの回答があった。


58:イースクエア(2005)(http://www.e-squareinc.com)
59:(http://www.toku-chi2.com/enq/instant/vol22.html


5‐2.ロハス層のライフヒストリー 

 本節では、ロハス層と呼ばれる人々のライフストーリーから、現在のライフスタイルへの<転機>を描き出すことを目的としている。今回、調査の対象としたのは、「ロハス」に関する活動に関わっていて、自己もロハスを実践している人々である。具体的には、NPOローハスクラブの関係者、ロハスに関する著作を出している著者達にインタビューを行なった。


5‐2‐1.NPOローハスクラブ 

 ここではまず、インフォーマントの多くが活動に関わっているNPOローハスクラブについて紹介しよう。「NPOローハスクラブ」
60は2004年3月に設立された非営利団体である。このNPOは、健康ですこやかに暮らしたいと願う人々に対して、ロハス(環境と人間の健康を優先した持続可能な社会のあり方を模索する)という志向を普及・促進するために調査・研究および情報のネットワーク化に関する事業を行い、人々の健康や社会活動、経済、環境の保全に寄与することを目的としている。そして、主な活動は、(1)保健、医療又は福祉の増進を図る活動、(2)学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動、(3)環境の保全を図る活動、(4)経済活動の活性化を図る活動であり、事業としてはセミナー、視察会の開催、調査研究活動、情報の収集・提供、書籍出版物の刊行、情報交換、協力体制作り、用品および活動に対するLOHAS認定、企業等に対するコンサルタントをしている。NPOローハスクラブは、2006年1月19日には『日本をLOHASに変える30の方法』を出版し、ロハス企業40社を紹介している。

 NPOローハスクラブの活動の歴史を振り返ると、活動開始の当初一年間は、CO2の排出量の調査に基づいて、各都道府県別の環境家計簿を発表していた。しかし、「表を使ってもらうだけで、さっぱりお金にならないし、NPOとしてやっていくのも大変」であったために、LOHASアカデミーを始めることにした。LOHASアカデミーはホームページを通じて日時・場所を発表し、募集したところ、受講料が7万7千円(6回)とかなり高額だったにも関わらず、募集人数の50人が集まることとなった。LOHASアカデミーはその後も六本木ヒルズにて定期的に開催されている。また、このLOHASアカデミーの講座を履修し、米国のボールダーへの海外研修を終えた人のことを「LOHASコンシェルジェ」と呼ぶ。

 インフォーマントとしては、このLOHASコンシェルジェの方から三人、NPOローハスクラブの理事の方とその友人の三人、他にロハスに関する著作を発表している方の一人、合わせて七人と話すことができた。インフォーマントは生活の中でロハス的な生活をしていることを中心的な条件として選んだ。インタビューは主に、仕事場、近くの喫茶店などで行なった。質問形式は主に「現在のようなライフスタイルに至ったきっかけをライフストーリーとして話してください」という主旨の質問から始められ、その後はソクラテス問答法で行なった。各インタビューは一時間から二時間続いた。多くの場合、インフォーマントの方は快く承諾してくださり、スムーズにインタビューをすすめることができた。


60:NPOローハスクラブ(http://www.lohasclub.org/)


5‐2‐2.インフォーマントのライフストーリー 

 ここで、七人のインタビューのケースを取り上げ、個人のライフストーリーとそれに現在のライフスタイルの形成が如何に関わってきたかを概観したい。
 
 JHさん(女性:30代)はLOHASコンシェルジェであり、現在、料理コーディネーターをしている方である。彼女は母親が「しっかりした考えを基に……いまロハスと呼ばれるような暮らし」をしていた。例えば、食事はこだわりの食材による手作りであったり、リサイクルの牛乳パック・トイレットペーパーなどを使用していた。しかし、当時の再生素材技術が劣っていたために牛乳パックが茶色であったりなど、「いかにもリサイクル」なライフスタイルに対して、彼女は子供のころは恥ずかしく、嫌だと感じていた。また、そのために自分の家が貧乏であるとも思っていた。そのような生活に反発するかたちで、「自分のお金や時間を持てるようになると、ファーストフードに行きまくるようになった」と述べている。

 JHさんは大学を卒業し、百貨店に就職した後も、そのような「奔放」な生活を続けていたのだが、徐々に「体調が悪くなった」「体力・免疫力が落ちた」「腰が悪くなった」「冬になると風邪をひくようになった」などの自覚症状を持つようになった。その結果、働き続けることも難しくなり、その原因が「ライフスタイルや食生活をちゃんとしていないことであったりすることに気づいた」という。そして、その頃結婚した彼女は、無添加のシャンプーなどの「身体にいいものや環境にいいもの」を購入するになったという。「何で(母親がそのようなことを)やってたのかが今になってわかった」と彼女は昔を振り返って述べている。彼女に、「健康意識と環境意識とどちらの意識を持ってロハスに取り組んでいますか」と尋ねたところ、「両方を区別したことはあまりない。主に健康意識から(ロハスを)する場合が多いかもしれないが、それらは厳密に区別できないのではないか。」と述べていた。

 現在、彼女は、職場でいかにロハスを広めるかについて悩んでいるらしい。なぜなら、料理コーディネーターという仕事では、料理の写真を撮ることが主な作業であるために、写真を撮り終わった料理は捨ててしまうことが多く、それがロハス的でないからだ。ただ、自分の価値観を周りの人々に押し付けようとするのではなく、自分がまずそれらの料理をできるだけ持って帰ることなどを通して、周りの人にも料理のもったいなさに気づいてもらえればよい、と考えているそうだ。

 MTさん(女性:30代)もLOHASコンシェルジェの方であり、現在は主婦の傍ら、自分の畑を持って野菜を育てている。MTさんは学生時代までは特に環境や健康に対する気遣いというものはしていなかった。そして、卒業後に住宅関連の会社に勤め始めたが、医療事故にあい、訴訟問題になったということもあり、体の健康を壊すとともに、精神の健康も損なってしまった。

 その後、結婚すると同時に、「らでぃっしゅぼーや」
61や「生協」から有機食品や環境に配慮した商品などを買うようになったと述べている。ロハスを始めるようになった契機として「身体の健康を害した」「結婚して自分で何かを選べるようになった」62ことなどを挙げている。その後、ご主人の転勤で筑波へ移住し、地元の人との繋がりを持って何かをしたいと思い、近隣の主婦などを誘い、合同で畑を始めたそうだ。「ロハス」というキーワードを聞いたときは、「これはまさに私が追い求めていたものだ。」と思い、LOHASアカデミーに参加したそうだ。現在は、自分のできる範囲でロハスを広めていかなければならないという義務感を持っている、と述べていた。

 藤崎健吉さん(男性:40代)は、NPOローハスクラブのスーパーバイザーであり、『日本をロハスに変える30の方法』の著者でもある。現在、プランナーとして行政や民間企業の各種プロジェクトに参画し、「食と農」「健康と環境」「地域と世界」を結ぶ、さまざまなコミュニケーション装置、仕組みづくりを行っている。週末はよく座間(神奈川県)にある自分の畑に野菜を育てるために出かけている。彼は、もともと子供の頃から体が弱かった。例えば、生まれてすぐ喘息になり、酸素テントで過ごしていた。その後も、アトピーや喘息、アレルギー鼻炎などの症状がずっと繰り返していた。その影響で子供の頃から食べ物や農業・生き物などに強い興味があったと述べている。しかし、東京の世田谷区に住んでいたために、あまり自然に触れることができなかった。また、弟や姉の死があり、「生命の秘密みたいにも探ってみたいな」と考え、都内の農学部に進学した。「そこで土や野菜に触れているうちに、環境のことに興味が沸いてきた。」と述べている。

 大学を卒業後は就職せず、卒業一年後に『科学なるほど読本』を出版し、その後、バイオに関するコピーライター・プランナーとして、「都市環境」「ヘルスミュージアム」などの各種催事、文化施設のコンセプト立案・企画制作、商品やブランドの開発等に携わるようになっていき、その過程で現在の健康観・環境観が形成されたと述べている。現在、講演・プロジェクトなどを通して、自分の価値観を周りに拡大していく試みを続けている。

 井出敏和さん(男性:40代)は、『いきいきロハスライフ!』、『いきいきロハスライフ!のすごし方』の著者であり、日本でもロハス(LOHAS)にいち早く注目し実践した人物である。例えば、彼は5時に起床し、ヨガと瞑想で一日を始め、サプリメントを欠かさず、マクロビオティック的食生活などを行っている
63。また、「ロハスライフのすごし方〜今日から始めるLOHAS生活〜」というタイトルのメールマガジンを毎週しており、日本におけるロハスのオピニオンリーダー的存在の一人である。井出さんは自己のロハスの原点として、『POPEYE』64の創刊を挙げている。そこで取り上げられている「輝く太陽の下で、ペリエ飲んでジョギングしよう」という西海岸のライフスタイルを「かっこいい」と思い憧れ始め、ビタミンを飲んだり、ジョギングしたりという生活を日本にいる頃からしていた。

 そして、1987年の29歳の時に音楽製作ソフトの開発のために渡米し、シリコンバレーに居住するようになった。シリコンバレーで井出さんが感じたことは、まず米国人の健康志向の強さであった。その理由として、米国には公的な健康保険がないために、「自分の健康は自分で守る」「おちおち病気になっていられない」と考える人が多いのではないか、と述べている。また、いっしょに仕事をする人の中には、ヒッピーやニューエイジ、東洋思想に触れたことがある人が多く、日本人よりも「スピリチュアリティ」や「自己開発」をとても重視する傾向があると感じたそうだ。「20年前には(米国では)太っていて、煙草をやっている人は出世できなかった」が、現在では、「瞑想やって、ヨガをやっている人のほうが知的労働者としての生産性が高い」と述べ、仕事をやっているときに実際に瞑想やヨガが役立っていることを実感している。また、『ハイ・コンセプト』に言及し、知的労働者の中でも右脳的な要素を持った人が現代では価値を持っており、そういう人々は瞑想やヨガをやっているだろうと述べ、そのような人々にとても共感すると述べている。現在は、ブログ・メールマガジン・著作活動などを通じて、ロハスの普及を熱心に行なっている。

 TTさん(女性:30代)はLOHASコンシェルジェの方である。TTさんは帰国子女であり、米国に居住していた。有機食品やリサイクル製品、自然化粧品を購入するようないわゆる「ロハス」と呼ばれるライフスタイルに関しては、米国に住んでいた頃から「特に意識しないでやっていた」ということだ。なぜなら、周りのみんながやっていたからである。しかし、米国でもそのようなライフスタイルは中・上流階級のものであり、「中の下より下の人々には難しい」と感じた。日本に帰ってきた後、周りの人との価値観との違いが「息苦しい」と感じたり、満員電車が「ストレスフル」と感じているらしいが、現在も生活の中でロハスを「できるだけやる」ことを心掛けている。ロハス・コンシェルジェとして、ロハスの普及活動の義務感はある程度持っているが、「職場などではあまりそういう話をしない」と述べていた。

 國田薫さん(女性:20代)は、現在松下政経塾に在籍しており、『日本をロハスに変える30の方法』の著者でもある方である。國田さんは、小学生の頃に米国の東海岸に居住していた。小三になった時に日本に帰国するが、日本の空港に着いた時に「空気が苦しい」と感じたそうだ。愛媛の小学校に通っていた時に、「地球の温暖化」について夏休みの自由研究で調べたという。國田さんは高校の時に、オーストラリアに留学し、本格的に環境問題に関心を持つようになった、と述べている。その背景として、当時オーストラリアではフロンガスによる紫外線が問題となっていたことがある。こうして、國田さんは、環境と生活のつながりを意識して生活することが習慣づいたという。大学三年生の時に、環境法のゼミに入り、公害訴訟などについて勉強した國田さんは、「ガスは電気より環境にいい」と考え、東京ガスに就職するが、「営利企業」的なところが肌に合わずやめてしまう。その後、京都の大学院の地球環境学科の一期生として、環境省やNPOを研修しながら、「排出権取引の制度設計」について研究する。そこで、自然エネルギーへの転換は費用対効果が悪いということに気づき、ライフスタイルの変革に興味を持ち始める。同時期に、松下幸之助の思想に触れて共感をした國田さんは、松下成蹊塾に入塾し、今に至る。現在、環境問題に関する論文執筆、講演などを通して、「自覚的生活者」としてのロハスを広めようとしている。國田さんいわく、自覚的生活者とは、「自分の周りの人々や環境とのつながりや責任を意識する人」のことである。「私は安すぎる製品は買わない。なぜなら、安すぎるものを作ろうとしている裏には必ず搾取や犠牲があるからだ。」と述べていたのが印象だった。「自分が説明できないことを減らす」ことが自覚のための一歩だとして勉強を続けている。

 HNさん(男性:20代)は、現在ペットボトルを作る会社に勤めており、國田さんの友人である。彼はWikipediaのLOHASの項目の作成者でもある。HNさんは小学生の時にドイツに居住していた。HNさんは、日本に帰国後、ダイオキシン問題に興味を持ち始める。それは、「当時のメディアでドイツのゴミ処理方法が賞賛されていた」、「日本のモラルが低い」と感じたからであった。その後、「学校の先生に聞いてもわからない」ことを「おもしろい」と感じるようになり、それを「ドライビング・フォース」に環境問題に興味を持ってきた。大学在校時に、環境問題に関するシンポジウムなどで勉強をするうちに、「ゴミ拾いをしている人が気になり始める」。その後、愛知万博などでゴミ拾いをしているうちに、國田さんと出会い、「LOHASな人」に関わるようになった。HNさんは、「自分はロハスではない」と述べているが、ロハスの友達が多く、環境問題などのエコロジー自体に興味はあるが、健康に関してはあまり興味がないためにそのように述べているのだろう。現在、HNさんはゴミ拾いのNPOや様々な講演などを通じて、環境問題をより知ろうとしていると述べていた。


61:「らでぃっしゅぼーや」とは、1988年より有機・低農薬野菜と無添加食品や環境に配慮した日用品などの会員制宅配サービスを行っている団体である。(http://www.radishbo-ya.co.jp/)
62:MTさんはそれ以前には実家暮らしをしていた。
63:(http://www.kouenirai.com/profile/1992.htm)
64:POPEYE(ポパイ)は1976年にマガジンハウスから創刊された日本の男性誌である。アメリカ西海岸のスタイルを日本に初めて紹介したことでも知られ、当時の男性誌の世界を一新する、新たな世界観を若者に植え付けた雑誌として現在でも知名度の高い雑誌である。
(http://ja.wikipedia.org/wiki/POPEYE)


5‐2‐3.ライフストーリーから見る再魔術化への<転機> 

 ライフストーリーを分析する前に、第二章で提唱された「環境問題における認識と行動の距離は人々を再魔術化することによって埋めることができるのではないだろうか」という仮説を検証することにしよう。本稿で採用した「再魔術化」の定義とは、「生命的自然を基盤とする世界に『参加している』という意識の再獲得」であった
65。そして、インタビューを通して、インフォーマントは共通して「参加する意識」を持っており、だからこそ環境問題への積極的な参加をしていることがわかった。「参加する意識」とは「自己」と「自然」の対立を超えて、自我の延長として自然を捉え一体感を得る意識であり、再魔術化した意識である。具体的には、インフォーマントは、それらのエコロジー的感覚を「地球・他者への配慮へのより大きな理解」(井出)、「意識を発展させていく」(藤崎)、「自覚的生活者として、つながりを意識する」(國田)などの言葉で表現している。そして、このような「参加する意識」の気付きによって、ロハスを実践するようになり始めたのである。実際に、ほとんどのインフォーマントはロハスを広めようという政治的努力をしていたし、かなり高い公共意識を持っていた。具体的には、環境問題、環境リスク、貧困、フェアトレード、健康格差問題などの公共的話題には関心を持っていたが、憲法問題や靖国問題などの公共問題には言及することはほとんどなかった。このように、再魔術化による私的関心の公的なものへの移行もある特定の公共性を前提としているようであった。

 では、インフォーマントが再魔術化した<転機>は何だったのだろうか。<転機>とは、ライフストーリーにおける、ある体験をもとにした主観的リアリティの変化のことであり、新しい意味体系の獲得過程のことである
66

 第一に、多くのインフォーマントが自己の身体の健康問題を<転機>としていることが挙げられる。例えば、平岡さん、鳥居さん、藤崎さんは健康に何らかの問題を抱えることによって、現在のライフスタイルへの転換へと至っている。

 では、何故健康の問題が環境に配慮した製品を重視するライフスタイルと関係を持つのだろうか。それは、食品添加物や農薬、遺伝子組み換え食品などの日常生活に偏在する個人にとっての「環境リスク」
67として環境問題を個人の問題と捉えることによる。環境リスクとは、自然に存在しない化学物質を合成し、農薬や食品添加物、そのほかの工業製品を利用することで、自己の健康が飲食物や大気に含まれる有害物質のために損なわれる問題である。平岡さんや藤崎さんはまさにこのケースに該当する。これはこれまでの産業公害や都市環境汚染問題が対処してきた「多量、集中、短期、直接」的な影響に加えて「少量多種、広域、長期、複合」的な影響を課題とする新しいタイプの環境及び生態系汚染や人の健康影響の問題が浮上してきたということであろう68。この結果として、「異常の消去運動」69という健康観のもと、インフォーマントは「体に悪いモノ」である環境リスクを避け、「体に良いモノ」を求めるようになるという構図である。例えば、ダイオキシンやアスベスト、残留農薬やBSEなどといった化学物質を危険であるとして、それを避けることが人々自身の健康にとっての利益になるために安全・安心なものを買う。また、自然志向のものは人間の手が加わっていないから安心、安全とされる70。したがって、自分の健康に対する脅威を「環境リスク」と捉え、自然なものは自分の健康にとってよいとされる。平岡さんも、有機食品や無添加製品を買う場合に、「環境意識というよりは健康意識からそうしている」と答えている。

 こうして、環境リスクという認識によって、「環境」という外部が人々の自己利益に内部化され、社会的ジレンマが解決される素地がある。つまり、「健康によい」と「環境によい」という認識が同一化されるのだ。こうして、自己の健康を求めるという私的行動の結果としての公的問題である環境問題解決への貢献という図式が「環境リスク」という認識によってなされるようになる。ここで、環境リスクを媒介として、合理主義の帰結としての再魔術化が生まれていることが考察できるだろう。つまり、自分の身体を健康に管理しようとする合理的・規律的態度をとろうとすると、環境問題への関心が不可欠となってくるのだ。まさに、ウェーバーのプロテスタンティズムの精神や、フーコーの規律的人間像のアンチとしてではなく、その延長にこそロハスは位置しているのである。

 また、リスクに対するこれらのライフスタイルの変化は、リスクの個人化を象徴している。例えば、鳥居さんは会社の事故による健康被害に対する保険が会社からおりなかったことにより、自己の健康に関する責任は自分でとるようになったと考えられる。井出氏も米国のLOHASの要因としての、公的健康保険の不在を指摘している。保険とは、人々の安全への欲求を充たすだけでなくリスクの社会化という一種の社会協定を通じて、自由な個人の契約関係から成る新しい連帯社会の形成に寄与する「道徳技術」であった
71。しかし、不確実なリスクの増大は、保険による被害の補償の失効をもたらし、リスク管理の個人化を推し進める。その結果、リスクを日常生活の中で、主体的に管理するライフスタイルが生じてくるのだ。こうして、「リスクの選択といかに生きるかの選択は一体のものとして行なわれる」72のである。

 第二に、ロハスを実践するようになる<転機>として、異文化との接触が挙げられる。例えば、井出さんやMTさんにとっては、米国における文化創造者との接触が大きな<転機>となっている。レイの分類に沿うと、井出さんは自己実現と環境問題の双方に関わる「核的文化創造者」との文化交流によって、彼らの価値を内面化している。一方、MTさんは環境問題などに関心は寄せるが、精神的な問題にはあまり興味がない「緑の文化創造者」の中で育ち、彼らの価値を内面化している。

 また、米国でなくても、異世界と接触し、そこでの生活になじむことによって、自文化が何を抑圧することにより我々の合理化された日常性が成り立っているかに気づく場合がある。例えば、國田さんは「自分の周りにいた人はロハス的な人でなかった」と述べているが、同時に「日本の空港に着いた時に空気が苦しいと感じた」と述べている。それは、「空気のきれいな」場所で育ったために、身体知によって環境汚染を知ることができたからであると考えられる。

 総合すると、異文化の他者の文化を内面化した例を除き、自主的・個人的に現在のライフスタイルへと転換しているインフォーマントにとっては、<身体>が既存のライフスタイルへの批判の立脚点となっているといえる。つまり、既存の構造にただ縛られていた「臣民(subect)」から、自己のライフスタイルを決定する「エイジェンシー」へと変容するためには、<身体>という準拠点の存在があるといえる。再魔術化するためには、「身体が、自然的フレームと社会・文化的フレームとの転換スイッチをなす」
73のである。生命とは、言説の秩序としての政治性を侵食し、それによって秩序そのものを構成する外部にほかならないのである74。こうして、現代社会では当たり前とされているものによる抑圧からの反抗は身体領域から創発される。まさに、「身体的欲求は、人間がその一部でしかありえない自然への本源的な帰属を確認しようとする美的要請の泉でもある」75のだ。そして、システムへの反抗は、初発には身体レベルに発するために、感覚的なものなのである。山之内はこの点を以下のように論じている。

外的世界と内的世界のあいだに横たわるさまざまな境界のスウィッチを切り替えることによって始めて人々はコミュニケーションを円滑におこなうことができるのであるが、その場合に、『身体はあらゆるコミュニケーションの本源的な媒体』として機能する。諸個人は、常に、一方においては外部とのコミュニケーションと社会的時間ルールへの適応に向う運動の担い手であると同時に、他方においては秘密の言葉で語りかける内部の声に向かう運動の担い手でなければならない
76

本節で考察してきたのは、「再魔術化」、つまり自己が自然を基盤とする世界に参加しているという意識がどのようなプロセスで個人の意識として形成されてきたのかというプロセスである。そこでは、身体への<反自然>(=環境リスクなど)の侵食が身体知による「気づき」として<転機>になり、人々の意識及びライフスタイルを変容させてきたといえる。


65:モリス・バーマン(1981)前掲書
66:桜井厚(2002)前掲書、236頁。
67:環境リスクは、人の活動によって環境に加えられる影響への負荷が環境中の経路を通じ、ある条件のもとで、健康や生態系に影響を及ぼす可能性(おそれ)を示す概念である。日本では、もともと、「リスク」は保険、金融、貿易業界を中心に使用されてきたが、最近は健康に対しての「リスク」として普及した。環境庁リスク対策研究会(1997)『化学物質と環境リスク?これからの環境保健を考える?』化学工業日報社、11頁。
68;環境庁リスク対策研究会(1997)前掲書、81頁。
69:上杉正幸(2002)『健康病?健康社会はわれわれを不幸にする』洋泉社、65頁。
70:野村一夫(2003)「メディア仕掛けの『健康』」『健康ブームを読み解く』青弓社、37頁。
71:山口節郎(2002)『現代社会のゆらぎとリスク』新曜社、158頁。
72:山口節郎(2002)前掲書、197頁。
73:油井清光(2006)「パーソンズ・ベイトソン・再魔術化?脱パラドクスと身体?」『社会学研究 No.79』東北社会学研究会、31頁。
73:真木悠介(1977)『気流の鳴る音』筑摩書房、26頁。
74:檜垣立哉(2006)『生と権力の哲学』ちくま新書、233頁。
75:山之内靖(2003)「『脱魔術化』した世界の『再魔術化』とどう向き合うか」井上芳保編『「心のケア」を再考する』現代書館、243頁。
76:山之内靖(1996)『システム社会の現代的位相』岩波書店、328頁








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