LOHASブログ
再魔術化のポリティクス
「エイジェンシー」としてのロハス(LOHAS)層の考察
 第四章.日本におけるロハスの受容と流行「消費手段の再魔術化」

4‐1.LOHAS概念の日本への輸入 

 ロハス(LOHAS)という言葉を日本で最初に紹介したのは大和田順子である。大和田は、2002年9月21日の日本経済新聞でLOHASを文化創造者のライフスタイルとしてこう紹介している。

健康を重視し持続可能な社会を志向する生活スタイル「LOHAS」(ローハス)が米国で注目されている。……LOHASとはライフスタイルズ・オブ・サスティナビリティーの略。……地球温暖化に関する京都議定書を支持していない米国に、持続可能な社会を目指すライフスタイルを持つ消費者が数多く存在するなどにわかには信じがたい。しかし、今年発表された「LOHASジャーナル」の消費者調査によれば、米国成人人口の30%、約五千万人がLOHASを重視する消費者であるとの結論が出た。まずLOHAS誕生の経緯をたどってみる。そもそもは1998年に社会学者のポール・レイと心理学者のシェリー・アンダーソンが新しいタイプの人々として「カルチャー・クリエイティブ」を提唱したのが始まりだった。これは単に環境への配慮に心を砕くだけではなく、家庭や地球環境、さらには社会の未来像といった個人生活の分野以外にも総合的に深い関心を示す人々のことだ。日本でも知られるグリーンコンシューマーの概念を大きく拡大し、社会への能動性を付与した姿と考えれば良いだろう。

 ここで述べられている「グリーンコンシューマー」とは環境にやさしい商品を選んで購入し、そのための情報収集にも積極的で、環境保護意識の高い保護者のことである。つまり、LOHASにおける持続可能性、特に環境の持続可能性の部分が中心に解釈され、グリーンコンシューマーの拡大概念とされている。


4‐2.『ソトコト』によるロハスの普及と流行化 

 「ロハス」を一般用語として普及させたのは、ロハス・ブームの火付け役としてよく言及される『ソトコト』である。『ソトコト』とは、世界初の環境ファッション・マガジンとして創刊された雑誌である。編集者の小黒一三が想定した読者は、「ドイツや北欧に見られるような、環境や健康に関心が高く、消費のトレンドに敏感で上昇志向も強い都会人」であった。『ソトコト』はいち早くLOHASに焦点を当て、ロハスのオピニオンリーダー的代表雑誌となり、現在「ロハスピープルのための快適生活マガジン」
47と自称している。

 『ソトコト』が初めてロハスを取り上げたのは、2003年6月号の「ソトコト特集 LOHASのためのナチュラルメディスン・ガイド」である。この記事ではナチュラル・メディスンとして、チベット医学、仏教医学、オイル・セラピー、果実健康法、アガリクスなどの紹介がされている。当初、LOHASは代替医療を重視するライフスタイルとして紹介された。次に、『ソトコト』でLOHASが紹介されたのは2004年4月号である。そこでは、ロハスな研究、ロハスな住空間、ロハスな仕事、チベット医学、気功などが特集された。初期において、『ソトコト』ではロハスの定義が曖昧であり、健康・環境に関することなら何でも「ロハス」として捉えられていたようだ。これに関し、「『ソトコト』は様々な製品・サービスや団体・個人をロハスであるとしているが、明確な基準を示しておらず、マイナスイオン商品やリサイクル品でもない長靴をロハスプロダクツとしている」
48などの批判も生まれた。

 『ソトコト』が本格的にロハスを扱いだすのは、2005年1月号の「ロハス大予言2005!」以降である。ここにおいて、2005年は「ロハス元年」と位置づけられ、それ以降、『ソトコト』の販売部数は前年比で4割増えた。それと並行して、「ロハス」に関する定義付けがなされるようになっていく。

 また、この時期からTVやラジオにおいてもロハスは取り上げられるようになっていく。マイボイスコムが2005年12月に実施した調査によると、LOHASという言葉の内容・意味を知っている人は13.1%で、言葉を聞いたことはあるという人の25.3%を合わせると、認知度は4割弱となっている。

 ここで、主に2005年に月刊ソトコト編集部と電通LOHASプロジェクトによって出版された『Lohas/book』を参照しながら、『ソトコト』の述べる「ロハス」の特徴について整理しよう。

 第一に、ロハスの特徴で最も重要なのは、ロハスが「健康」と「環境」というキーワードを結びつけることによって、「健康で持続可能な暮らし方」という一つの新しいライフスタイルの概念としているところである。「まず、自分自身の心とカラダが『健康』であること、そのうえで人間社会や自然環境の状況が『持続可能』であること」
49が重要視される。

 第二に、上記と関連するが、ロハスはエコロジー言説に付与されてきた禁欲主義志向ではなく、快楽主義志向を特徴とする概念であるとされる。例えば、エコロジー=「つらくてたいへんなので、長続きしない」というイメージがあるのに対して、ロハスは「楽しく、スタイリッシュに、長続きさせる」というイメージを重要視している
50。つまり、エコロジーが環境によい/よくないという境界を規定しそれまでのライフスタイルの否定するのに対し、ロハスは「こうじゃなければダメ」という難しいルールはなく、より緩やかでオープンな形での提案型の概念である。

 第三に、ロハスは都市型生活をしている人でも実践できるとされる。ヨーロッパから輸入された概念であるスローライフが田舎での閉鎖的な生活をイメージさせるのに対し、ロハスのターゲットは都市移住者であることが多い。例えば、「都市居住者、忙しい人たちにとって難しく、スローライフを諦めていた人たちが、今の暮らしのなかで実現できる方法を考え、実行しようとする動きが『ロハス』を牽引している」
51と言及されている。

 第四に、ロハスを中・上流階級の文化であるとする言説がある。「あなたは二割高くてもオーガニック製品を買いますか」という質問に象徴されるように、『ソトコト』の提供する商品はそうでない商品に比べて高く、生活に余裕がない人には買いにくいものであろう。『ソトコト』では、ロハスは中・上流階級のものではないのか、という質問に対して以下のように答えている。

環境に配慮された商品は、そうでない商品に比べ、価格が高いことも多いですし、健康的な生活を送るには、時間的にも余裕が必要です。富裕層とまではいかなくても、ある程度所得に余裕のある層のライフスタイルといわれれば、そうなのかもしれません。・・・ただ、所得の少ない人たちが無関係かというと、決してそうではない。ロハス的な価値観を持つ人が増え、社会の仕組み自体が変われば、ロハスな生活を享受できる層は、どんどん拡大していくのだと思います52

 第五に、ロハスはエコ・ファッションというおしゃれなライフスタイルのイメージとして定着していったといえよう。大和田順子は「ソトコト」によるロハス・ブームについて以下のように述べている。

数年前から、これも仕掛け人は『SOTOKOTO』だが、スローフードやスローライフが流行り、エコライフの素地はできつつあった。そこに、ヨガブームやマクロビオティック(スローフードも含めた自然食、有機野菜など)、『SOTOKOTO』の坂本龍一さんなどの象徴的な存在で、エコ関係の商品やサービス、ショップ、ライフスタイルが「LOHAS」というキーワードでオシャレさを出すことに成功した。『SOTOKOTO』が丸ビル内にオープンした「ソトコトLOHASキッチン&バー」カフェ&ショップも、LOHASグッズの具体的なプレゼンテーションとなった。一般女性誌にもLOHAS特集が組まれるようになっており、オシャレなちょっとエエコといったイメージで流行したと見ている53

 しかし、これらの『ソトコト』誌のロハスに関しての批判として、第一にその商業主義的な手法に対しての不信感が挙げられる。朝日新聞の記事で亀和田は以下のように述べている。

『ソトコト』は事あるごとにロハスを取り上げてきた雑誌です。ビジュアル処理がすぐれているため目立ちませんが、大手企業の広告がめじろ押しです。・・・一見それとわからない、洗練された広告ページの集積を眺めるうち、ロハスの実体も見えてきました。〈機能〉を強調するだけでは、もはや商品は売れない。それに気づいた21世紀の資本主義が、総力で開発した“人と地球にやさしい”商品という巨大プロジェクトがロハスです。ただ便利な物を売るのでなく、「ココロの健康」を標的にしている点が、従来のビジネスとの最大の違いです54

 第二に、『ソトコト』誌の同系列の株式会社トド・プレスが「ロハス」を商標として登録していたことに対する批判が挙げられる。2004年12月に三井物産と共に商標登録したトド・プレスは、2006年春より2社の商標を一括管理しライセンスビジネスを始めると発表した。しかし、大手企業の多くは実際には広告に「ロハス」を使うのを敬遠するようになった。これは、「ロハスの種、入っています シャープの家電」というポスターの文句を、三井・トド側が警告をしたことがきっかけである。そして、企業が使わないためにロハスの世間への露出は限られることとなった。2006年5月、三井物産とトド・プレス両社は、商標使用料をとるのをあきらめ、他社が使っても抗議しないと決めた。これは、ロハスというライフスタイルをあらわす一般用語として紹介されてきたものを商標として登録しライセンスビジネスを企てていたことが「結果的に世間や多くの企業から反感を買ってしまった」55と反省したからだ。

 こうして、米国から輸入されてきた概念である「ロハス」は、『ソトコト』誌によってエコロジーにおける消費的快楽の追求を肯定する言葉として多用されてきたといえよう。それらの言説の裏には、富裕層への消費を活性化させる商業主義や、「ロハス」をライセンスビジネスとして扱おうとする意図などがあった。

「ロハス」は新たな「記号」として、差異を創出することによって、演出され、流行になっていったといえるだろう。ボードリヤール(Jean Baudrillard)は、人々を「消費」に向わせている心性の内に、日常生活の中で奇蹟を待望する未開社会の魔術的な心性と同質のものが潜んでいるということを指摘する
56。消費社会においては、一定の様式のもとに「記号」として配置することによって、我々の欲望が刺激され、我々は新たな消費活動へと誘われるようになる。そこでは、「価値はないが、他との差異をもつ社会的記号である商品」である「ガジェット」が出現する。

 リッツァー(George Ritzer)は、このような消費手段のコントロールによる搾取が資本主義によってなされていると論じ、それを「消費手段の再魔術化」
57と呼んだ。(バーマンの提唱した再魔術化と区別するためにリッツァーの提唱した再魔術化を「消費手段の再魔術化」と表記する)。「消費手段の再魔術化」とは、豪華さや華麗さによって自発的な消費を誘い込み、魅了(enchant)することである。消費社会では、消費過程は財の実質性から乖離してスペクタクル化するのである。ロハスの一般用語としての普及は、ライフスタイルを消費手段の再魔術化によって変容させようとする試みの中で生まれてきたものであったと結論付けることができるだろう。


47:『ソトコト』が「ロハスピープルのための快適生活マガジン」を名乗るようになったのは創刊6周年である2005年6月号からである。
48:Wikipedia「LOHAS」(http://ja.wikipedia.org/wiki/LOHAS)
49:月刊ソトコト編集部・電通LOHASプロジェクト(2005)『Lohas/book』木楽舎、6頁。
50:月刊ソトコト編集部・電通LOHASプロジェクト(2005)前掲書、7頁。
51:月刊ソトコト編集部・電通LOHASプロジェクト(2005)前掲書、7頁。
52:『ソトコト』2005年1月号、50頁
53:大和田(2005)「LOHAS(ロハス)のすすめ」(http://www.owadajunko.com/)
54:朝日新聞 2005/11/13/26面「あっちでもこっちでもロハス」
55:朝日新聞 2006/06/14/12面
56:ジャン・ボードリヤール(1995)(=今村仁司・塚原史訳)『消費社会の神話と構造』紀伊国屋書店
57:George Ritzer (1999) Enchanting a disenchanted world : revolutionizing the means of consumption, Pine Forge Press.








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