LOHASブログ
再魔術化のポリティクス
「エイジェンシー」としてのロハス(LOHAS)層の考察
 第三章 文化創造者とLOHAS

 本章では、「文化創造者」研究を紹介し、米国のLOHASの特徴を概観したい。スローライフという用語がヨーロッパから輸入されたように、ロハスも米国から輸入されてきた用語である。前述したように、ロハスという用語はレイによって文化創造者のライフスタイルを示す用語として生まれた。

 文化創造者という概念の始まりは、社会学者レイと心理学者シェリー・アンダーソン(Sherry Ruth Anderson)が1998年に、アメリカに「文化創造者」という新しい集団が現れ、全人口の26%を占めているということを指摘したことに端を発する。レイらによると、1995年から2000年までの間にアメリカの全人口の24%を信心深い保守派である伝統主義者(Traditional)が、48%を民主主義と科学技術を信奉する現代主義者(Modern)が、残りの26%を文化創造者が占めている。この結果は、1995年に行われたリーバイス社による10万人の成人と500の集団を対象に意識調査から導き出された
38。レイによると、これら三つの集団は以下のように分類できる。

3‐1.伝統主義者 

 伝統主義者(Traditionalist)とは、家族と宗教に価値を置き、変化に懐疑的な人々であり、その多くが田舎に住む。そのため、現代社会や複雑なことに不適応的である。彼らは、家父長的な価値観を持ち、フェミニズム・開放的な性に批判的である。敬虔なプロテスタントであることが多い彼らは、聖書を規範にして勤勉に行動し、家族・教会というコミュニティを重視する。多くの伝統主義者は外国人に排他的であり、自衛のための武器の所持に賛成である。このような伝統主義者は全人口の24%を占める。伝統主義者にインタビューしたレイは次のように述べている。

調査対象集団のメンバーと何回も話しあっているうちに、伝統主義者の認識スタイルが次第に明らかになってきた。伝統主義者は、できる限り複雑な状況や考え方を避けようとし、変化や当世風な世界に対して感情的に反発する。アメリカの伝統主義が求めているものとは、わかりやすいもの、揺るぎなき伝統、世俗的でないもの、宗教一色の文化、そして国家と民族の統一である。加えて「昔の素朴で敬虔なライフスタイルに立ち帰り、罪を悔い改めよ」というのが共通のレトリックである。一方、伝統主義の影に、憎悪に燃える集団と極右過激派が存在する39


3‐2.近代主義者 

 近代主義者(Modernist)とは近代主義を信奉する人々である。近代主義とは理性によってより良い世界を構築しようとするイデオロギーであり、現代の西洋世界で支配的なサブカルチャーである。近代主義者は、自由・平等・正義・民主主義を信奉し、多くが近代化された都市工業社会に住んでいる。彼らの多くが政治に無関心であり、人間関係を軽視している。

 近代主義者は普遍性と世俗性に価値を求め、個人の自由と成功をすべてに優先する。近代主義者の30%は信仰を博愛主義と同一視しない。36%は個人の自由と人生の目標を優先させ、地位や生活レベルを向上させ続けることに重きを置いている。82%は金銭的な物質万能主義を信仰している。彼らの主な関心事は、個人的成功や消費者主権主義、科学技術万能主義にある。さらに、近代主義者は産業社会における近代経済理論、合理的経営手法、科学技術の進歩を崇拝しており、現実主義で物質主義的である。レイらがインタビューした近代主義者は以下のように述べている。

かつて人間は、人種・民族・性別・出身地・宗教・職業・教育水準などで一人ひとり細かく分類されたうえで牢獄につながれた。現代文明は、この牢獄からの脱出というシナリオの上に築かれている。中流階級かそれ以上の階級の人間にとって、脱獄のシナリオは現実味を帯びている。現代性により、ついに私たちは伝統の制約から解放され、あこがれと才能に導かれてどこへでも行けるようになった。民主主義のもとでは、もはや特定の宗教を強要されることはないし、無理に教会に所属させようとする聖職者や年長者の言うことを聞く必要もない。無制限ではないが、だいたいは自由に意見を述べることもできる。時間とお金の余裕があればどこへでも好きな土地へ旅行できるし、読みたいものを読み、見たいものを見、望んだ相手と結婚でき、望むなら出身階級から逃れることもできる40


38:Paul H. Ray and Sherry Ruth Anderson (1998) “The Emerging Culture”
39:ibid.
40:ibiid.

3‐3.文化創造者 

 文化創造者とは環境維持、自己実現、人間関係に価値を置き、好奇心旺盛で、学識がある人々である。「持続可能な地球環境や経済システムの実現を願い、そのために行動する」、「金銭的、物理的な豊かさを志向せず、社会的成功を最優先しない」、「人間関係を大切にし、自己実現に力を入れる」、「なるべく薬に頼らず、健康的な食生活や代替医療による予防医学に関心がある」などの志向を持つ。これらの価値観は、近代主義に対する反発から生まれたとされる。したがって、文化創造者は既存宗教の不寛容さ、大企業による生態系の破壊などを拒否する。1975年にその他の3%でしかなかった文化創造者は、1995年には23.6%、2000年には29%に増加している。

 文化創造者は社会的地位ではなく、自己実現による内面の成長を目指す。しかし、多くの文化創造者にとって内面の成長はキリスト教的な道徳的成長を意味しない。既存の宗教を求める文化創造者は17%にすぎない。85%が外国好きであり、76%が人間関係を大事だと考えている。また、文化的創造者は知識欲が旺盛である。また、文化創造者は集団としてコミュニティの不和と環境問題に関心を寄せている。文化創造者の92%がコミュニティの再建を望み、87%は国連環境開発会議が決定した「持続可能性」を支持している。博愛主義的な割合が近代主義者で51%、伝統主義者で55%であるのに対して、文化創造者は84%である。また、理想社会を作るために活動家でありたいと考えている割合は、近代主義者は29%、伝統主義者が34%であるのに対し、文化創造者は45%である。文化創造者の70%が社会的な成功でなく、創造的な時間を優先する。将来に楽観的な割合は文化創造者が35%であるのに対して、近代主義者は24%、伝統主義者は26%である。

 「文化創造者」と呼ばれるこれらの個人は、次のような志向を持つ。それは、精神性と心理的成長の重視、大組織への反発、物質主義と権威・地位の拒否、健康的な生活の重視地域社会の再生、異文化への興味、持続可能な地球環境、質素な生活、有意義な人間関係への願望、社会的成功の軽視、女性の視点の重視、利他的行動主義、理想主義、未来への楽観的思考、本物志向、プロセス・経験の重視、グローバル的思考などである。

 文化創造者は、全米各地に存在する。彼らの年収の中央値は4万7000ドルであり、年齢の中央値は42歳である。30%は大学卒であり、三つのサブカルチャー集団の中で最も教育レベルが高い。男女比率は4:6で、女性の方が多い。

 これらの文化創造者はさらに核的文化創造者と緑の文化創造者の二つのタイプに分けることができる。核的文化創造者は2400万人ほど存在し、「個人の進化」と「緑」の双方に価値を置く。彼らは精神生活の向上や自己実現に取り組む一方で、女性問題や環境問題などの社会問題に関わっている。核的文化創造者は、学歴が高く、上流中産階級が多い。男女の比率は1:3であり、女性が多い。芸術家、作家、音楽家、臨床心理士、環境運動家、フェミニストなどが多い。一方、緑の文化創造者は2600万人ほど存在し、環境問題などに関心は寄せるが、個人的な問題にはあまり興味がない。彼らは中流階級が多く、世俗的であり、核的文化創造者に倣う傾向がある。

 文化創造者は以下のようなライフスタイルをもつとされる。(1)TVよりラジオを好み、本や雑誌をよく買い、よく読む。(2)ほとんどの文化創造者が芸術や文化活動に熱心で、そのためにお金を惜しまず。自分で実際にやってみることを好む。(3)プロセスを重視し、「全体像」に関わることを好む傾向がある。(4)プラスチック製品、模造品、手抜き製品、使い捨て製品、最先端のファッションなどの「偽者」を嫌い「本物」を志向する。(5)ラベルや消費者レポートを見るなどの慎重な消費行動が多い。(6)文化的な分野で最先端を行く人が多い。(7)食へのこだわりが強い。(8)木の多い、静かな、古い住宅街に住むことを好む人が多い。(9)地域の自然環境などの立地条件を重視する。(10)プライバシーを重視し、住まいを「巣」や「隠れ家」的なものだと考える傾向がある。(11)インテリアは芸術作品や工芸品を飾る人が多く、インテリアに自分の趣味やセンスの良さが発揮されると感じている。(12)異国情緒豊かで、冒険的で、体験的で、教育的で、精神的な旅を望む人が多く、エコツーリズムなどを好む。(13)啓発的で、感動的な経験を求め、自己啓発ワークショップ、瞑想や祈りの集まりなどによく行く。(14)代替・補完医療や自然食を志向し、統合的な健康観から予防医療を重視する。


3‐4.米国におけるLOHASの特徴 

 LOHASという概念は、上記の文化創造者のライフスタイルを示す用語として提唱されることとなった。米国のLOHASの特徴としては、第一にLOHASは「新しい社会運動」の結果生まれたとされる点である。レイは、文化創造者の形成は新しい社会運動の価値が社会心理的に拡大したことによる、と指摘している。新しい社会運動とは、議会制度民主主義に代わる直接的民主主義、女性、マイノリティ・グループ、独自の地域文化などアイデンティティの自己確認、環境、平和、福祉、人権など、生活水準や経済成長以外の人間的な諸価値を追求する社会運動のことである。山之内は、新しい社会運動を「自らの生活感覚に対する批判的覚醒を自覚化しようとする美意識的・文化的表現運動」と見做しており、広い社会階層に共有される意識改革のプロセスとして、潜在的な意識変化の水準によって評価されるべきであると評している
41。特に核的文化創造者は、新しい社会運動の影響を強く受けており、彼らの活動の結果、LOHASが拡大していったとされる。

 第二に、米国の文化創造者は精神性を重視しており、その結果としてLOHASを実践しているとされる点が特に顕著である。この背景として、米国において精神性は急激に高まっていることが挙げられよう。例えば、1994年のギャラップ調査で、精神的成長を経験する必要を感じるかどうか米国人に聞いたところ、「はい」と答えたのが二割だったのに対し、1999年の調査では58%増加し、「はい」と答えたのが78%となっている
42。また、会社においても、瞑想やヨガが「集中力が高まり、直感がさえ、疲労がやわらげられ、創造性や組織力を高める」43とされ労働生産性の向上のために奨励されている。パトリシア・アバディーンは、このような精神性の高さから、誠実さや透明性、賢明な統治、そしてより高い社会環境基準を追及しようとする人々の姿勢を「意識の高い資本主義」44の到来であるとし、その結果LOHAS的消費が増えていると指摘した。

 第三に、米国におけるLOHAS言説の流布は農業を中心としていることが挙げられる。例えば、“LOHAS JOURNAL”という雑誌は農業雑誌であり、有機食品の特集などを中心としている。

 第四に、米国のLOHASは消費者の間ではあまり一般的な用語ではなく、専門家や企業家の間でマーケティング用語としてか認知されていない
45。もともと、LOHASは「純粋に学問的見地から生まれたカルチュラル・クリエイティブスに対し、LOHASが学問的な研究調査をベースにしながらも、起業家がビジネスにするにはどうしたらいいかというマーケットの視点から、市民層の価値観をとらえ直したもの」46というコンセプトとして生まれた。したがって、米国のLOHASはビジネス、特に企業の社会的責任(CSR)との関連で論じられることが多い。例えば、ビジネスや専門職中に文化創造者は1500万人いるとされ、米国においては彼らがビジネスを積極的に牽引しているとされる。ただ、LOHASという言葉自体はあまり知られておらずLOHASを実践しているとされる人々のほとんどは「自分がLOHASである」という認識がないのが実状である。
では、この専門用語としてのLOHASが日本において「ロハス」という一般用語としてどのように普及していったのだろうか。自称では、その過程と変遷を追いたい。


41:山之内靖(2003)「『脱魔術化』した世界の『再魔術化』とどう向き合うか」井上芳保編『「心のケア」を再考する』現代書館、235〜236頁。
42:パトリカル・アバドゥーン(2005)(経沢香保子監訳)『メガトレンド2010ー新しい資本主義をつくる7つのトレンド』ゴマブックス株式会社、44頁。
43:パトリカル・アバドゥーン(2005)前掲書、270頁。
44:パトリカル・アバドゥーン(2005)前掲書、78頁。
45:米国ではLOHASに関する市場調査が行なわれており、5つに分類されている。(1)エコロジカル・ライフスタイル(環境配慮型の家族・オフィス用品、エコツーリズムなど)、(2)健康的ライフスタイル(有機食品やサプリメントなど)、(3)持続可能経済への貢献(再生可能エネルギーや社会的責任投資など)、(4)代替医療(予防法、補助医薬など)、(5)自己啓発(ヨガなど)である。
46:Peter David Pederson(2006)『LOHASに暮らす』ビジネス社、54〜55頁。








Copyright 2007 lohas club.org. All rights reserved.