LOHASブログ
再魔術化のポリティクス
「エイジェンシー」としてのロハス(LOHAS)層の考察
 第一章 研究の分析枠組み

1‐1.問題意識 

 本稿は、人間と自然の関係をめぐる社会学的な探求の試みである。ベック(Ulrich Beck)は、『危険社会』で人間と自然の関係について次のように述べている

環境問題は社会の外側の問題ではなく、徹頭徹尾(発生においても結果においても)社会的な問題なのである。そして、また人間の問題でもある。つまり、人間の歴史の問題、人間の生活条件の問題、人間が世界と現実にどうかかわるかという問題であり、経済、文化、政治体制の問題でもある。文明社会において、自然は産業によって変化させられて生じた「社会内部の自然」である1

 それでは、そもそも人間と自然を対立するものとして認識する発想はいつ生まれたのだろうか。それは17世紀に、デカルト(Ren Descartes)が物心二元論を唱えることによって、自然現象をすべて「死せる自然」として自我と対置させたことに始まる2。バーマン(Morris Berman)は、こうした「自然をより正確に捉えるために、自分自身を自然から引き離す」態度のことを「参加しない意識」と名付けている3。こうして、デカルト以降、近代人は自然を操作し支配し、自らの目的のために自然を使う能力が自分にあると考えるようになっていった。

 19世紀には、自我と自然を対置させる「参加しない意識」を基に、社会と自然を対置させるという考え方が普及していくことになる。こうした考え方は、社会は自然を支配すると同時に無視するという二重の目的を達成した。「自然」という環境からは、「社会」はエネルギーと資源をインプットし、代わりに産業廃棄物をアウトプットする。つまり、近代化とは「自然」を外部化し、「社会」を創造する過程であったといえよう。その副作用に対する自然保護の問題は産業化が始まった以来存在したが、自然保護団体によって掲げられた個々の批判は、ついに進歩史観と時代おくれを理想とする思想以上のものにはならなかった
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 日本においては、1960年代の高度経済成長期を通した産業化の完成を通して、自然の外部性が社会的に明示された。それは、インプットの側では、資源・エネルギー危機が1973年のオイルショックとなって成長の夢を壊し、アウトプットの側では、水俣病などの公害が産業廃棄物公害の恐ろしさを通じて自然の自浄力の限界を示した
5。これらの問題群は1980年代後半頃から環境問題として認識されるようになっていき、特に地球環境問題として地球温暖化、オゾン層の破壊、熱帯雨林の破壊、酸性雨などが注目を浴びるようになったっていった。

 これらの環境問題に呼応する形で、ライフスタイルの変革の必要性が度々主張されてきた。そこでは、人間のエゴイズムに基づいた行動が生態系にとって破壊的であり、環境問題を解決するためには、エゴから脱却することが必要であると論じることが多かった
6。例えば、加藤は、環境問題の解決のためには、自然の生存権、世代間の倫理、地球全体主義を基盤とした環境倫理が必要である、と主張している7。また実際に、環境保護運動・エコロジー運動が盛り上がったヨーロッパでは、価格よりも環境に配慮した製品とサービスを選ぶ消費者としてのグリーンコンシューマーと呼ばれる存在が指摘されている。彼らは、価格が安くて質のいい製品やサービスを最優先させる合理的な消費者と対比され、将来世代に対する責任と公共性を意識した成熟した消費者と表象される8

 しかし一方で、「日本の消費者は環境意識は高いが行動が伴わない」といった指摘が各種アンケートで浮き彫りにされており、最近の調査でも大きな変化はみられない9。実際に、環境省の資料によると、「ごみの分別」等のルール化・義務化された環境配慮行動は比較的よく行われている一方で、環境負荷低減技術および製品の購買額などは、1997年の2256億円から、2000年には1742億円と減少しており、高い環境意識が消費における環境配慮行動につながらない傾向にある。つまり、環境に対する意識が高いにも関わらず、グリーン購入と呼ばれるような消費的環境配慮行動を実践できない消費者像の姿が指摘できるだろう10

 では、何故環境意識が高いにもかかわらず日常的なライフスタイルにおいてはそれを実践できないのだろうか。この要因としては、主に以下の二つの点を指摘できる。第一に、環境問題を社会の外部の問題として捉えることによって「解決しなければならない問題であるが、自分がやらなくてあまり変わらない」という「社会的ジレンマ」
11に陥ってしまうからである。実際に、多くの人々が環境保全や将来世代のためには社会全体での協力が必要だと納得しているにもかかわらず、自分の快適で便利な生活を犠牲にしてまでそれに協力しようとする人は少ない12

 第二に、もし環境に配慮した生活をしようとしても、実際にどのような行動をしたらいいいのかわからず無力感に苛まれてしまうことが多いからである。もし人々が抽象的に環境問題を認知していたとしても、具体的な消費行動の手続き知識と関連づけられていなければ、消費場面で環境配慮の態度に整合する行動はとりえない
13。例えば、30ヶ国環境問題国際共同調査によると、日本の消費者が能動的な環境配慮活動をしない要因として、「個人レベルの取り組みでは解決に向けて大した力にならないという意識」が挙げられている14

 ここで我々は環境問題に関する「認識と行為の距離をどう埋めればいいのか」という問題意識に突き当たる。つまり、環境問題という認識を実践につなげるにはどうすればよいのかという問題意識である。環境問題における社会的ジレンマと無力感を考慮すると、環境問題に関する知識を知らしめるだけでは行為に至らせるには不十分ではないのだろうかという疑問が沸いてくる。したがってここで、「なぜわれわれは環境問題に目を閉ざすのか」と問題を立てるよりも、「いったい彼/彼女たちはなぜそれに目を閉ざさないのか」という問題を立てることのほうがより適しているのではないだろうかと考えた。

 この問題意識に基づき、本稿は環境の持続可能性に配慮したライフスタイルであるロハスを実践している人々に注目することにした。何故ロハスに注目するのかというと、ロハスとは米国生まれの概念であり、合理主義・利己主義・個人主義・快楽主義を肯定する態度を基盤とした何らかの背景があり、社会的ジレンマと無力感を乗り越えられるのではないか、と考えたからである。したがって、本稿はロハス層と呼ばれる人々に関する調査を通して、人間と環境との関係における新たな道を描き出すことを目的としている。


1:ウルリッヒ・ベック(1986)(東廉・伊藤美登里訳)『危険社会 新しい近代への道』法政大学出版局、129-130頁。
2:井上義彦(2004)「環境学の基礎学としての環境哲学」『環境と人間』九州大学出版会、19頁。
3:モリス・バーマン(1981)(柴田元幸訳)『デカルトからベイトソンへ 世界の再魔術化』国文社、62頁。
4:ウルリッヒ・ベック(1986)前掲書、329頁。
5:上野千鶴子(1990)『家父長制と資本制』岩波書店、8頁。
6:管俊夫(2000)前掲書、142頁。
7:加藤尚武(1991)『環境倫理学のすすめ』丸善、1?12頁。
8:栗田房穂(2002)『「成熟消費社会」の構想』流通経済大学出版、21-22頁。
9:エコビジネスネットワーク(2005)『新・地球環境ビジネス 2005-2006』産学社、73頁。
10:環境省(2004)『平成16年度版 環境白書』ぎょうせい、26-27頁。
11:一般的に「個人が自分自身にとって合理的な選択をすると、全体としては非合理なことになってしまうメカニズム」のことを指す。鳥越皓之(2004)『環境社会学』東大出版会、93頁。
12:広瀬幸雄(1995)『環境と消費の社会心理学』名古屋大学出版会、13頁。
13:広瀬幸雄(1995)前掲書、6頁。
14:環境省(2004)『平成15年度 環境白書』ぎょうせい、31頁。


1‐2.研究対象と研究手法 

 本研究の対象は「ロハス」というライフスタイルである。「ロハス(LOHAS)」とはLifestyles Of Health And Sustainabilityという英語の略語であり、直訳すると「健康で持続可能
15なライフスタイル」である。持続可能性(Sustainability)は、環境の持続可能性と解釈され、ロハスは「環境と健康にやさしいライフスタイル」と言及される。

 第一に、「ロハス」という概念がこれまでどのように生じ、扱われてきたのかに関する言説をロハスに関する本、新聞記事、雑誌、インターネット、消費者調査などの内容を分析の対象としながら整理する。言説分析では、語る内容とともに語る主体の社会的ポジションを重視し、語る主体の隠された利害関心や、言説の政治的効果が問うことを目的とする
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 第二に、ロハスを実践している人々に対してフィールドワークによる調査を行なった。今回、調査の対象としたのは、「ロハス」に関する活動に関わっていて、自己もロハスを実践している人々である。具体的には、NPOローハスクラブの関係者、ロハスに関する著作を出している著者達にインタビューを行なった。

 インタビューは、主にライフストーリー法に基づいて行った。ライフストーリーのインタビューでは、解釈的客観主義アプローチを採用した
17。解釈手客観主義アプローチとは、帰納論的な推論を基本としながら、語りを解釈し、ライフストーリー・インタビューを重ねることによって社会的現実をあきらかにしようとするものである18。ただ、本稿が目指すのは、多くのサンプルから考察対象の平均像を描こうとする統計的な一般性ではなく、明らかにしたい問題構造全体のなかに自分が扱う事例が占める位置を具体的に示し、そのうえで一般的な観点から吟味可能で多様な類型を導出するという一般性である。

 語り手の選択の手法としては、機縁法
19を用いた。これは、最初の語り手によって次の語り手を紹介してもらったり、語り手の語りのなかに出てきた登場人物や語り手から得た情報をもとに、インタビューに応じてくれそうな対象者や関係がありそうな対象者に連絡・接触を試みる手法である。

 インタビューを行うのは、第一に、状況の変化による個人のライフヒストリーへの様々な影響を考察するとともにインフォーマントが自己のライフストーリーを語ることを通して表象されるリアリティを描き出すためである。

 第二に、インフォーマントを、「エイジェンシー」
20として捉えることを目的としている。エイジェンシーとは、無条件に自由で啓蒙主義的「主体subject」でもなく、かといって既存の構造や言説をただ再生産する「臣民subject」でもなく、構造内での主体の受動性を克服し、言説の意味をずらしていく人間像である。もし人間が言説を反復し再生産するためだけの存在だとしたら、そこには変革の可能性はないことになる。しかし、自ら社会を変えていくような主体的な人間像として捉えなおすことによって、新たな政治的意味や文脈を開く政治的抵抗の理論化を可能にさせることができるだろう。したがって、インフォーマントを、当該の構造に規定されながらも、日常的に他人または他人による状況の見方を変えるために「競合する価値の優先順位をめぐる交渉過程」21に参加していくポスト構造主義的な「政治的人間像」として捉えていく視点が重要であろう。

15:持続可能性とは「自然資本の賦存量が、最小安全基準に基づく決定的な水準の自然資本量を下回ってはならないという制約条件の下に、世代内公平性に配慮しながら、福祉水準を世代間で一定に保つこと」である。環境の持続可能性と経済・社会の持続可能性を共存させるという意味も持つ。諸富徹(2003)『思考のフロンティア 環境』岩波書店
16:赤川学(2001)「言説分析と構築主義」上野千鶴子編『構築主義とは何か』頚草書房、77頁。


1‐3.本研究の学問的位置づけと先行研究の批判的検討 

 社会学やマーケティングの分野において、ライフスタイル研究は多くの蓄積を残している。そもそも「ライフスタイル」の概念は、マックス・ウェーバー(Max Weber)が社会階階層を経済的関係とくに生産体制への参与の型からのみ理解するのは不十分であるとして、「階級class」のほかに「地位グループstatus group」というコンセプトを提案したことから始まる
22。それは、財の消費様式、職業、養育と教育のパターンによって形成される階層であり、生活様式、生活態度、人生観などの点で類似性があるという意味で、特定の「ライフスタイル life style」を共有していると考えられた23。つまり、ライフスタイルとは集団に属する人々にとっては同調すべき規範であると同時に、それを代表するシンボルである。本稿ではライフスタイルを「生活態度の類似性を持つ、共通する消費様式によって形成される階層」と定義した上で、ロハス(Lifestyles of Health and Sustainability)を対象として分析する。

 本研究に関連する研究としては、環境社会学の分野における蓄積がある。環境社会学とは、自然環境と人間社会の相互作用を、環境問題の相互作用を、環境問題の発生と解決、および、環境共存の実現という二つの文脈に即して、社会の側に焦点をあてながら解明する社会学の一分野である
24。本研究は、特に環境社会学における生活環境主義の延長にある。生活環境主義とは、住民の暮らしにおける工夫に論理的整合性をもたせてモデル化したものである。

 生活環境主義を提唱した鳥越は「生活環境とライフスタイル」
25という論文で、環境問題や資源問題という限界が社会のライフスタイルの変革の必要とする、と論じている。しかし、鳥越は、それに対する施策として公共的領域の強化による市民の自主的な地域計画の必要性という結論に至り、社会的ジレンマを個人レベルで如何に克服するかについては触れていない。

 社会心理学における先行研究としては、広瀬の『環境と消費の社会心理学』が挙げられよう。広瀬は、環境問題の認知と実践の距離を生める三要素として、(1)環境汚染の被害の深刻さとその事態の発生可能性の認知による危機感、(2)環境汚染や破壊の原因が誰あるいは何にあるかという責任帰属の認知による責任感、(3)なんらかの対処をすれば環境問題は解決できるであろうという対処有効性の認知による有効感を挙げた。しかし、広瀬は具体的・一般的対策を掲示しているわけではなく、現在これらの危機感・責任感・有効感を消費者が持ち、実践をしているとはいいがたい。また、広瀬のモデルは心理的な側面のみを見たモデルであり、社会構造との関連に関してはまったく触れていない。

 また、村瀬の「環境配慮型製品を選択するのはどのような人かー情報保有とネットワーク」
26が先行研究として挙げられる。村瀬は、(1)単純に経済的に余裕がある人が、環境を考慮した購買行動をするのではない、(2)消費文化になじんでいる人ほど、環境配慮という要因も考慮する、(3)社会について十分な情報を持っていれば、協力行動をとることができる、という三つの結論をアンケート調査によるロジスティック回帰分析から導き出している。しかし、この調査はどのような具体的情報を契機として協力行動をとるようになるのかに言及しておらず、環境配慮行為をするようになるための消費者の主観的契機を把握できていない。よって、本研究では実際に環境配慮方製品を日常的に選択しているロハス層へのインタビューを通して、如何なる情報が有効なのかを探っていく。

 本研究の最も重要な先行研究として、レイ(Paul H. Ray)の『文化創造者:どのように5000万人の人々が世界を変えているか(The Cultural Creatives: How 50 Million People Are Changing the World)』を挙げたい
27。レイはこの著作によって、文化創造者(Cultural Creatives)という概念を提唱した。その内容は、文化創造者に関するアンケート・インタビューの調査と分析、歴史的把握などである。そもそも「LOHAS」という用語は文化創造者の消費傾向を表すために生まれたものであり、ロハスの理解のためには本書は欠かせないものである。第三章では、主にこの研究を要約し、米国の文化創造者の特徴について概観する。


17:インタビューは非常に主観的な手法であるために、考察主体の解釈が、自己の背景、経験、正確、関心、意図によって偏ったものになりうるという「間主観性の問題」は常に考慮しなければならないだろう。渡辺靖(2004)『アフターアメリカ』慶應義塾大学出版会、21頁。
18:桜井厚(2002)『インタビューの社会学 ライフストーリーの聞き方』せりか書房、25頁。
19:「雪だるま式サンプリング」とも呼ばれる。桜井厚(2002)前掲書、25頁。
20:上野千鶴子(2002)『構築主義とは何か』頚草書房、298頁。
21:佐藤仁(2002)『稀少資源のポリティクス』東京大学出版会、3頁。
22:Max Weber ed (1968) Economy and Society, Vedwinster Press, pp. 305-306.
23:井関利明(1979)「ライフスタイル概念とライフ分析の展開」井関利明・川勝久・村田昭治編『ライフスタイル全書 理論・技法・応用』ダイヤモンド社、9頁。
24:船橋晴俊(2004)『新版 社会学とはわかる』朝日新聞社、44頁。
25:鳥越皓之(1998)「生活環境とライフスタイル」飯島伸子・船橋晴俊編(1998)『講座社会学12 環境』東京大学出版会、75〜102頁。
26:村瀬洋一(2006)「環境配慮型製品を選択するのはどのような人かー情報保有とネットワーク」
『社会学研究 No.80』東北社会学研究会123〜144頁。
27:Paul H. Ray and Sherry Ruth Anderson (2000) The Cultural Creatives: How 50 Million People Are Changing the World, New York: Three Rivers Press.


1‐4.研究意義 

 「ロハス」という言葉が日本で始めて紹介されたのは2002年9月21日の日本経済新聞であるが、現在、「ロハス」に関する言説、またロハス層の意識を分析した学術研究は管見の限り存在しない。したがって、この調査の意義としてはロハスに関する総合的な考察と、「ロハス」を実践している人々の多様性と共通性を描き出すことに本研究の第一の意義がある。

 第二に、ライフスタイルという観点から「環境問題をどう解決させていけばよいのか」という指針を示すという意義がある。環境問題の解決には、環境配慮型の商品を消費するようなライフスタイルを提示することは重要であろう。もし、すべての商品が、環境負荷が小さいものとなれば、現在の環境問題はかなりの程度、改善されるだろう。したがって、本稿は、環境問題における認識と行動の距離をどう埋めるのかという問いに対する一考察を試みることによって、戦略論を提示するものである。








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