LOHASブログ

「星のや」のランドスケープ・デザインに見るLOHASの視点
NPOローハスクラブ
藤崎健吉     
2005年7月20日にオープンした、軽井沢の「星のや」をご存知だろうか?
この旅館がいま、日本のLOHASを志向するリゾートとして話題になっている。
経営者は、日本各地のリゾートの再生を成功に導く「時の人」、星野佳路(よしはる)氏。顧客満足度を常に分析しながら、地域の特徴を上手に活かしたリゾートの再生を図る。その手法は新聞やテレビなどでも数多く取り上げられている。


さて、その星野社長が10年の歳月をかけて完成させた「星のや」は、大正10年に創業した軽井沢星野温泉ホテルが100年余りの時を経てリニューアルしたもの。オープン後の評判は上々で、評価の厳しい旅のプロたちからも絶賛されている。

軽井沢駅からはじまる
非日常へのいざないのストーリーは、これまでの日本の温泉旅館やリゾートには見られなかったきめ細かな「もてなしの演出」がデザインされている。

今回は特に、
「星のや」のランドスケープ設計を担当された、長谷川浩己さんにお話をうかがった。
(以下、青字:藤崎)

長谷川浩己氏 Profile

まず「星のや」のコンセプトを簡単に教えてください。

眺望のとれない谷あいの立地特性を逆に生かして、非日常の「谷の集落」を創る、ということです。どこかに出かけるための観光基点ではなく、このリゾート自身が長期滞在を前提とした非日常領域であり、くつろぎの場所であることを意図しています。
エコ・リゾートであることも大きなテーマであり、様々な取り組みがなされています。さらに「もう一つの日本」ということも大きなテーマになっています。日本が誇れる文化の上に立脚した、世界に通用するリゾートを創るという目標です。この辺のお話は星野社長の記事などをご参照ください。

ランドスケープ・デザインの特徴はどんなところにあるのでしょうか?

谷全体が滞在の場所となり、何日も過ごすに値する風景と様々なしつらえを用意したいと思いました。
東環境・建築研究所/東利恵さんと話し合いを重ね、集落にふさわしいスケール感を大事にしてます。

具体的にはまず谷としての大きな風景を造り、その中に生活が滲み出てきたかのような小さく手のかかった風景へとごく自然に連続していくこと、まさしくそれが集落の風景ではないかと思いました。

その実現によってはじめて山路地の風景、水際の風景、小さな庭の風景などが一つの流れの中にまとまります。谷あいの集落ですから当然かもしれませんが、今回は潤沢に使える水が、様々な風景をつなぐ有効な媒体として扱われています。

ずいぶん時間をかけて設計をされていたようですが。

計画自体は10年にのぼります。私は7年ほど前からこの計画に参画しました。

ランドスケープのデザインは、建築とは違い、
植物や自然、生命を素材に環境をデザインするわけですから、オープン直後に完成するのではなく、施設の完成を起点に時間軸とともに成長する、あるいは四季の変化を想定したデザインをされていると思います。
その意味で7年の歳月の中で特に留意されたことがあれば教えてください。


おっしゃるとおり、風景を構成している多くの要素は生きています。特にこの様な自然豊かなロケーションでは生きているものたちの存在が非常に大きいのです。それらはそれ自身の魅力を持っており、それ自身こうあろうとする意思を持っています。このような点をふまえて我々が考慮したのは以下のことです。

まずすでにここまで来ている時間を途切れさせないこと。それはすでにこの場所に生きているものを最大限守ることです。それから作りすぎないこと。その方が季節の変化だけでなく、天気、時間、光線の具合など、数え切れないほどの状況変化によりよく反応できるのではないかと思います。
最後に(これはこれからのことですが)管理計画をきちんと立てることが大切だと思います。それは試行錯誤の繰り返しになると思いますが、集落とはまさしく人とその土地の干渉作用の結果現れるものだからです。継続的な関わり、管理、誘導は今までの時間を割きにつなげる大事な作業だと思います。

ところで、なぜ、地域で採取した植物種を植えるのでしょうか?

そもそもここで造ろうとしている風景はこの場所固有の風景であり、それが軽井沢の谷という自然豊かな環境の上に成り立つ「もしくは大きく依存する」とすれば、なるべく敷地「周辺」固有の植物を導入するのは、いわば必然に近いものがあります。



地域固有の自然、植生の特徴と、主な植物種で特記すべきものがあれば教えてください。


ここは標高1000メートルの高地ですが、当然植生はそれに影響を受けています。ただこの他には過去100年に亘って営業を続けてきた場所ですし、多くの植生は本当の現植生だけではなく、紅葉類など人の手によって植えられたものも多数あります。それもまた集落の風景ということでしょう。目立つものはモミジのほか、オオヤマザクラ、ミズキ、ツリバナ、アカマツ、などです。敷地内にあるハナヒョウタンポクは県の天然記念物であり、これらはその場所ですべて保護されています。草本類は先にブロック単位で表土毎残せる場所は残し、いじった場所は先に述べたように種から育てて植えていきました。この辺のお話は星野リゾートの木曽さんが中心となって行っています。水辺は、セリ、エゾミソハギ、ショウブ、など。林床はメタカラソウ、サクラソウ、オミナエシ、マイズルソウ、カキドオシ、ヒトリシズカなどがあります。

シンボルツリーがいくつかあります。中でもムササビのわたり道となる樹を伐採せずに遺してあるとうかがいました。伐採をせずに景観を作るというのは、難しくないですか?

確かに難しいですが、それは解決可能な問題です。多くの巨大な木々については過去何代にもわたるゲストの方々にとって忘れがたい思い出であり、ある意味それらの価値はプライスレスだといえます。
どういうスパンで収支を見るかによりますが、全部伐採して一から作り直すことが実際に簡単で安くつくかどうかは疑わしいところだと思います。ただこれはデザインだけの問題ではなく、何を創ろうかというビジョンの問題に大きく依るところでしょう。

メイン・エントランスで、まず目に入ってくるのが「集いの庭」。水を効果的に使った景色が随所に見られます。

これは湯川の水を水力発電用に引き込んでいるものを修景として利用していますが、今回の水は敷地レベルに対して、中間レベルにまず導入されています。

そのためメイン・エントランスから見ると大きな池はまるで天井川のように目線の上にあり、そこからこぼれ落ちてくる水が斜面を巡って林の中に棚田があるかのような庭を造りました。

このように下から見上げたり、橋から遠く映る山の影を見たり、山から見下ろしたり、水に対していろいろな視点を用意してあり、ゲストはそこを立体的に回遊することにより、常に新しい水との関係が発生します。同じ水は一部小さなコテージの庭まで水が引き込まれ、そこでは外とはまるで違った小さく密やかな水の世界があります。また、今回は水の音にもいろいろ工夫し、心地よい音を求めて実験を重ねました。この谷の集落、どこにいても水の気配に包まれている「見えたり、音だけだったり・・」ことが大きなコンセプトです。

台風や鉄砲水など、防災面は大丈夫なのですか?

湯川からの取水は常に星野リゾートの専門家によってモニタリングされ、細かく調整されています。もともと水力発電用の池なので、発電に支障を来すような水量は常にコントロールされています。(夏と冬で取水量は変化しますが)。万が一水力発電が緊急停止した場合は、余水吐けからバイパスされて放流される仕組みにもなっており、防災上の問題はありません。集いの池に対しては大きな池への水量にかかわらず、一定量のみ放流する仕組みになっており、こちらも問題ありません。

ちなみに、水力発電は施設全体のどれくらいの電力をまかなっているのでしょうか。

3つの水力発電所から合計約225KW。星のやでは新しく地中熱を利用した熱源システムも導入し、想定では75%のエネルギーが自給可能になる予定です。今年はいよいよそれの検証の年です。

メンテナンスにはコストがかかりそうですね?

メンテナンス計画については星野リゾートの担当の方たちとこれから詰めていくことになりますが、決して突出して高いものにつくとは思いません。なぜなら先にも述べたように敷地固有の条件を生かし、そこにあったもので構成していくことは、ある意味もっとも自然にその状態であり続けやすいのではないでしょうか。
今回は敷地も広いので、大きくメンテナンスを集中する場所と、ほとんど放置しても景観に寄与できる森などのゾーンを分けて考えたいと思います。

まさしく自然と人間の関わり方の「密度」によって風景が出来、変化し、継続していくことと同じだと思います。人の生活と自然がお互いに影響を与えながら、ゆっくり出来ていく風景を、ここでは望んでいます。

景観のさまざまなストーリーは、
宿泊客にどのように伝えるのでしょうか?

いろいろ見所とかを書いたマップを作成したいとは思っています。

ただストーリーとして伝えたほうがよりベターな場合もあるであろうし「ムササビの止まり木」とか、逆になんの予備知識も持たずに、ただ感じてもらう方がいい場合もあると思います。

長谷川さんのいちばんのオススメ・ポイントを教えてください。

ここが一番!はないです。やはり動きの中での風景の移り変わりを楽しんでもらいたい。動きといっても歩いている時間だけでなく、長期滞在の中で蓄積していく、いろんなシーンの集積が動きだと思っています。


私も実際に施設内を歩かせていただき、集落の間から見る景色の変化にはとても感動しました。「大きな驚き」というのではなく、「初めてなのにどこか懐かしい・・・」といった、何かそこはかと訴えてくるやさしい情感、とでもいえる風景が、移動とともに次々と広がってくる感じでした。この初めてなのに懐かしい、魂の原風景・・的な要素もLOHASデザインの大切な要素といえると思います。


では、最後に。景観の果たす役割・・・それは都市や郊外、リゾート、個人宅など、それぞれに違う意味を持っていると思うのですが、それぞれどんな点に留意していくべきなのですか?

都市と郊外において、パブリックとプライベートにおいて、風景それ自身の役割が変わることはないと思います。その場所の風景または景観(これは行政的な響きですね)はすべてそれを通じて世界とつながる大事なものです。

我々は固有の風景を通じてこそローカルからグローバルまでの把握が可能です。我々は風景の一部であり、そして全体としての風景を変える位置にも居ます。要は部分と全体の関係ですね。ハイゼンベルグの本がとてもおもしろいですが。
いずれにしても常に留意しているのは風景を通じて人々が肉体的にも感情的にもわれわれが住んでいるこの世界にコミットできるしつらえを用意したい。ということです。ややこしくてすみません。(笑)

個は全体を内包し、個の団体が全体を形づくる・・・そして私たち自身もその一部であるという大きな考え方に基づいて、ランドスケープをデザインする、ということでしょうか。
LOHASとは、地球全体と私たちの個々の生活行動のつながりを意識する「自覚的・自立的」生活スタイルであると、ローハスクラブも考えています。長谷川さんの視点は、まさにLOHASデザインだと感じます。思わぬところで、相通じるお話が伺えました。どうもありがとうございます。





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